メタボリック・シンドロームについて | |
薬学部医療薬学科 教授/健康管理室長 西郷勝康先生 |
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Q: | メタボリック・シンドロームとはどのようなもの? |
A: | 過栄養や運動不足を背景として、心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患が、働き盛りの年代に突然発症する病態が注目されてきました。肥満や高インスリン血症(インスリン抵抗性)を基礎として、糖尿病や高血圧、脂質代謝異常を合併した状態を、1999年にWHOがメタボリック・シンドローム(以下メタボ)ということばで定義しました。 |
Q: | インスリン抵抗性って何? |
A: | インスリンは血糖を下げるホルモンですが、同じ程度の血糖降下作用を示すために、よりたくさんのインスリンが必要になる病態が“インスリン抵抗性”とよばれます。インスリンには血糖を下げる作用以外に種々の作用があり、インスリン抵抗性になってもそれらの作用は残存するためにより強く表現されてしまい、高血圧や動脈硬化に直接関係してきます。 |
Q: | わが国のメタボの診断基準はどのようなもの? |
A: | 2005年に日本内科学会が発表した診断基準は、内蔵肥満の指標として腹囲の増加(男性85、女性90cm以上)に加えて、以下のうち2項目以上あてはまる場合とされています。(1)
脂質代謝異常として中性脂肪が150mg/dL以上あるいは低HDLコレステロール(40mg/dL未満)、(2) 血圧が130/85mmHg以上、および
(3) 空腹時の血糖が110mg/dL以上の3項目です。 |
Q: | 内蔵肥満がなぜメタボの基盤? |
A: | 内蔵脂肪細胞は単なる脂肪の貯蓄場所ではなく、炎症性サイトカイン(細胞と細胞のシグナル伝達物質の一種)の代表であるTNFや、抗動脈硬化作用をもつアディポネクチンなどを産生します。内蔵脂肪が増えるとTNF産生は増加し、一方でアディポネクチン産生は減少し、インスリン抵抗性が増し動脈硬化が促進されます。さらにある種の血栓形成促進因子や高血圧増悪因子も沢山分泌されるようになります。 |
Q: | 内蔵脂肪を減らすには? |
A: | まず肥満の改善、減量です。食事療法として、1日あたり200-300キロカロリー減らすと、1ヶ月で1kg程度の減量が可能で、3-6ヶ月で5-10%減量することを目標にしましょう。運動療法としては、有酸素運動が有効です。骨格筋の質的変化により、インスリンに対する感受性が改善します。ちなみに、1分間に60mのスピードで歩く運動の強度は約3METSと評価され、体重×METS数×運動時間(時間)=消費カロリーと計算できます。例えば60kgのヒトが3METSの運動を30分すると、約90キロカロリーのエネルギー消費にもなります。 一日にエタノール換算で60g以上を飲む大量飲酒は、肝臓での中性脂肪合成を促進し、酸化ストレスを増強させ、血管内皮細胞を刺激して動脈硬化を促進します。喫煙もLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を酸化し血管壁に障害を与え、血圧上昇と相まってやはり動脈硬化を促進します。節酒と禁煙も重要な要素ですね。 |
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会報Vol.22(2008年8月) |