自己破産とは | |
法学部 特別教授・弁護士 白出 博之先生 |
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Q: | 昨年のリーマンショック以降「100年に一度の不景気」といわれるなか、最近も倒産事件数がさらに増加していると報道されていますが、よく耳にする自己破産について説明してください。 |
A: | 司法統計年報によれば破産事件数は平成15年の25万件強をピークに減少に転じていましたが、ご指摘の通り本年は倒産事件数が増加しています。一口に倒産事件処理といっても、債権者と個別的に支払条件等を交渉する任意整理から裁判所を利用する民事再生法による個人再生手続、破産手続と様々なものがあります。 まず、日常用語的に説明すれば、破産とは、銀行や消費者金融等に借金のある人(債務者)が、その返済困難になったとき、自己の総財産をお金にかえて貸主(債権者)に、債権額に応じて配当する裁判上の手続です。そして自己破産とは、債務者自らが裁判所に対し破産手続開始の申立をすることですが、債務者の真の目的は破産手続が終了して返済されずに残った借金の支払責任を免れる免責決定を裁判所から得る点にあり、これが債務者にとって破産決定を受ける最大のメリットです。個人債務者が破産手続を利用できるためには、支払不能(債務者の収入・信用力を総合的に判断しても全債務を一般的継続的に支払うことができない状態)にあることが必要ですが、例えば毎月の収入から生活費を除外すると毎月の返済額に不足する場合はこれに該当し得ます。 破産した場合のデメリットとしては、各種の資格制限を受けたり(例えば保険外交員等になれない)、破産後数年間はクレジットやローンを利用できませんが、他方、世間一般にいわれてるように戸籍に記載されたり選挙権が無くなることはなく、会社を退職する必要もないのです。また、破産しても全財産を失うわけではありません。破産手続では、破産者の総財産を管理・換価・配当する破産管財人が選任される場合であっても、法律上の自由財産(当面の生活費や日常生活に不可欠な衣服・動産類、破産決定後に得た給料等の新得財産)は破産者から取り上げられることはありません。実際に多くの自己破産申立事件では、債務者の総財産が少額で配当の見込みが乏しいとして破産管財人を選任せずに手続が終了する同時廃止扱いとされています。破産申立をするための裁判費用は、同時廃止事件では約2万円、破産管財人が選任される場合は事件の規模等によって約22~50万円が必要です(さらに申立手続を弁護士等に依頼する場合はそのための費用が別途必要)。 上記の通り、自己破産を申し立てるメリットは免責決定を得る点にありますが、破産法は一定の免責不許可事由(例えば浪費・賭博による借金、返す見込みがないのに嘘をついてした借金)を定めていますが、不許可事由があっても一切の事情を考慮して裁判所が裁量免責する余地も認めています。 破産法は、倒産処理法制中、債務者の総財産を清算する形態の一般法とされており、いわば最後の手段です。特に人生最大の買い物である住宅等だけは手放したくない、あるいは上記の免責不許可事由がある債務者としては自己破産ではなく、民事再生法の個人再生手続に関する特則等を利用して、経済的な再起更生を図る選択肢もありますが、その判断は個別具体的な事情によりますので、専門家である弁護士等に速やかにご相談ください。 |
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会報Vol.24(2009年8月) |