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英語の辞書の使い方について 
QA29-初谷先生

外国語学部 准教授 初谷 智子先生


Q: 子どもが中学に入学したのに、いつまでたっても英語の辞書を買おうとしません。買い与えようと学校指定の辞書があるかどうか尋ねたところ、「教科書に単語の意味が全部載っているから必要ない」とのこと。本当に辞書を買わなくていいのでしょうか?
A:  最近の学校教科書は親切すぎて、学習効果が高いのか低いのかよくわからないことがありますね。語学に関しては、これは国語の場合も同じですが、学習初期の段階で辞書を引く癖をつけることが非常に重要です。その理由として、少なくとも次の5点が挙げられます。

①【意味の多様性
教科書では、その場面での意味一つだけが示されていることが多いので、学習者はその単語の意味を一つ覚えれば十分だと思ってしまう。初学者は同じ単語が他の場面で他の意味で出てきたときに、自分の知っている唯一の意味を無理やり当てはめようとしておかしな解釈に陥ることが多い。辞書では、一つの単語に複数の意味があることが一目でわかるので、場面に応じた意味を探す習慣が身につく。

②【相互関連性】
一つの単語が持つ複数の意味は、通常、中心的な意味から互いに関連し合って広がっている。毎日辞書を引いて、場面に応じた意味を複数の選択肢の中から選ぶ手順を繰り返していれば、単語の意味の全体像を徐々に把握できるようになる。このような知識は応用範囲が広い。一方、教科書で一つずつ与えられる意味に満足していると、その単語の持つ他の意味との関連性が見えないため、応用が効かない。

③【用例の必要性】
教科書ではその単語を用いた他の例文がなく、多数の用例に触れることができない。外国語学習において、数多くの例文を読むことの重要性は計り知れない。特に英語の動詞や前置詞などは、用例なしに使い方を理解することは不可能と考えたほうがよい。

④【付加情報】
教科書には単語の意味しか載っていない場合が多いが、辞書には、その単語の他の用例をはじめ、大学入試や社会人レベルで必須となる要素(発音記号、品詞、文法解説、類義語、反意語、熟語等)がふんだんに掲載されている。これらに常に触れているかどうかは、学習者のその後の学習効果に大きく影響を与える。

QA29-01⑤【習慣形成
教科書で与えられる意味に頼っていると、わからないことはまず自分で調べるという習慣が身に付かない。わからないことを自分で調べて理解できる力は、学生時代のみならず、社会に出た後も重視される重要なスキルである。

このように、辞書は英語学習において非常に大切な道具ですので、子どもさんにぜひ買ってあげてください。辞書というものは基本的に、コストパフォーマンスの高い情報の宝庫です。うまく使いこなせばこれほどお買い得なものはありません。もし子どもさんが学校で辞書の使い方を教わっていないなら、最初はご家族の方が一緒に引いてあげて、調べることを楽しむ雰囲気を作ることも大切かもしれませんね。

Q: 今度中学に入る子どもが電子辞書を欲しがるのですが、紙の辞書でなくて大丈夫でしょうか?  
A:  結論から言うと、中学・高校の段階では紙の辞書を使うことを強くお勧めします。

初学者にとっての英和電子辞書の利点は、 

① アルファベットの順序を覚えていなくても単語が調べられる
② 持ち歩きが楽
③ かっこいい

でしょうか。①については、電子辞書では綴りを入力していくとそれに応じて候補リストが順次表示されるので、リストの中から求める単語を選べばOKです。キーの配列は目に見えるため、アルファベット順を覚えていなくても調べられるという利点があります。一方、紙の辞書では、最初に開いたページから、自分の探す単語がそれより前にあるのか後ろにあるのかを、アルファベット順を念頭において自分で判断し続けなければならず、慣れないうちは手間がかかります。これを嫌がる学習者も多いのですが、これを繰り返すことではじめてアルファベットが完全に身に付き、電子辞書よりも素早く検索できるようになるのです。学習初期の段階から電子辞書に頼っていると、いつまでたってもアルファベット順を覚えられないばかりか、検索にかかる時間がほとんど短縮できないため、面倒臭がって辞書を引かなくなる危険性もあります。

辞書 また、②と③のメリットにも裏があります。コンパクトであるがゆえに電子辞書の画面は狭く、紙の辞書に比べて表示される情報に大きな制約があります。紙の辞書なら見開き2ページに渡って単語の意味や熟語、例文などを一度に見渡せるのに対し、電子辞書では、小さな画面を常に上下にスクロールして必要な情報を探さなければなりません。また、紙の辞書とは異なり、熟語や用例が単語の意味とは別ページに掲載されていて同じ画面上で表示できないため(パソコンのようなマルチウィンドウは使えません)、「例文」「成句」「複合語検索」といったそれぞれの辞書に応じたキーを駆使して、あちこちのページを行ったり来たりしながら検索する必要があるのです。このようなキーの使い方に習熟していない学習者は、用例、熟語、文法解説等の重要な情報にまったくアクセスできず、宝の持ち腐れになってしまいます。また、たとえキーの使い方を知っていても、熟語や用例の重要性を理解できていない初学者は、そういうページにわざわざ飛ぼうとしないことがほとんどです。

 広げたページで一度に情報が得られるのと、キーを操作してページを何度も行ったり来たりする手間を要するのとでは、学習者の気持ちの負担が大きく違います。少なくとも用例を読むことの重要性を理解し、辞書を十分使いこなせるようになるまでは、重要な情報が強制的に提示される紙の辞書で訓練することが絶対に必要なのです。 

Q: 社会人になって英語習得の必要性を切実に感じており、自分でTOEIC対策の勉強を始めようと思っています。高校時代に使っていた英和辞典は買い換えたほうがいいでしょうか? 
A:  ご本人の英語のレベルと高校時代にどのような辞書を使っていたかにもよりますが、買い足されたほうがいい方が多いのではないかと思います。理由は3つあります。

①【語数】
高校まで語数5万語程度の辞書を使っておられた場合、それでは語数が絶対的に足りませんので、ぜひ10万語前後のいわゆる「中辞典」に切り替えてください。特にTOEICテストの対策となると、最低でもそのレベルの辞書が必要になります。

②【学校英語と実用英語
辞書の単語の意味は、使われる頻度の高い順に並んでいることが多いのですが、学校英語と、社会人として要求されるビジネス英語とでは、一つの単語の持つ複数の意味の間で使われる頻度が大きく異なる場合がよくあります。特に、ビジネスではごく日常的に使われる意味が学習用辞典には載っていないということもありますので、TOEIC対策が目的であれば、実用志向の辞書を買い足す必要があるかもしれません。

 これは前項で中学生向けに述べたことと矛盾するように思われるかもしれませんが、10万語程度の辞書をすでに持っていて、一定以上の英語力と辞書を使いこなすスキルをお持ちなら、高機能の電子辞書を選ぶのも1つの手です。ビジネスで必要な用語は業種によって大きく異なりますし、それらの辞書を全て持ち歩くのは不可能です。電子辞書の場合、いろいろな辞書ソフトを追加することで自分の使いやすいようにカスタマイズできますので、使い方次第で非常に強力な武器となります。

 辞書も1つの道具ですので、自分がどういう目的・用途のものを必要としているか(英語学習用かビジネス利用か、語数はどの程度必要か、等)を見極め、状況に応じて適切なものを使い分けることが大切ですね。  


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  会報Vol.29(2012年4月)